【作品#0487】帰ってきたヒトラー(2015)

2010年代

帰ってきたヒトラー(原題:Er ist wieder da)

2015年のドイツ映画
上映時間は116分

2014年のベルリンにヒトラーが突然蘇った。テレビ局をクビになったサヴァツキは自身が撮影した映像に偶然ヒトラーのそっくりさんが映り込んでいることを発見し、彼を連れてドイツを旅する映像を撮ってテレビ局への復職を目指す。

監督はダーヴィト・ヴネント
音楽はエニス・ロトホフ
撮影はハンノ・レンツ

オリヴァー・マスッチ(アドルフ・ヒトラー)

ティムール・ヴェルシュが2012年に発表した小説の映画化。舞台俳優として活動していた無名の俳優オリヴァー・マスッチがアドルフ・ヒトラーを演じた。また、本作で民間人との会話シーンはすべてオリヴァー・マスッチのアドリブである。

 

ヒトラーを題材にした映画は戦後も作られ、本作もアーカイブ映像やパロディとして使われる「ヒトラー~最期の12日間~(2004)」が21世紀に入ってからでは最も有名であろう。ドイツ本国においてヒトラーを茶化すようなことも戦後70年が経過してようやく多少は受け入れられるようになったのだろう。

 

冒頭にヒトラーが2014年のドイツに蘇るのは当然ながらファンタジーである。軍服と髪型とちょび髭という特徴で彼はヒトラーのそっくりさんとして周囲から認識され始める(といってもそんなには似ていないが)。そこからヒトラーはテレビ局をクビになったサヴァツキとドイツ国内を旅してまわり、国民と会話していく様子をサヴァツキが撮影するという疑似ドキュメンタリー方式になっていく。ヒトラーのそっくりさんが2014年現在のドイツにおいて、いかにも言いそうな真実を聞いて時に人は笑い、そして時に人は真剣に耳を貸してしまう。

 

ご存じのようにドイツは世界でもトップクラスの移民国家である。本作でもヒトラーが新聞を読みながら触れられるトルコ人移民の問題をはじめ、シリア難民の受け入れなども大きな問題となり、本作中でも外国人を受け入れることに否定的な民間人も描かれる。また、そういった移民たちが一つの大きなコミュニティとなり市民権を得ると特に国内の右派と衝突することになる。周辺国で見ても、イギリスはEU離脱を決定し、各国で右派政党が躍進するなど、世界的な右傾化も見られ始めたころでもある。

 

そんな状況下だからこそ、ドイツ人が立ち上がらなければならないと演説するヒトラーに民間人が耳を貸してしまうのだろう。ヒトラーがユダヤ人をアウシュヴィッツ収容所送りにして多くのユダヤ人を大虐殺した歴史はドイツ人全員が知っていたとしても、「あれっ、こいつの言っていること正しくないか?」と思わせる説得力がこの「ヒトラー」にはあるのだ。

 

最終的にこのヒトラーの著書が大ヒットして映画化されることになる。ヒトラーが本物だと気付いたサヴァツキがヒトラーを追い、次の場面では屋上にヒトラーを追いつめたサヴァツキが銃を撃ってヒトラーが転落する。そして、背後には死んだはずのヒトラーが姿を現す。すると、そこは実は映画の撮影現場だったというオチがつく。ヒトラーは文字通りすでに死んでいるが、たとえ死んだとしてもまたどこかで復活するのだというメッセージが非常にメタ的で興味深い。歴史は繰り返すというものだが、左寄りの政策や考えが広がっていくと、今度はそれに反発するかのように右側が台頭してくる。そして、そういった個人や組織が台頭する時というのは概ね極端な主張や手法が人々の胸に刺さってしまうものなのだ。

 

本作は本編が終わると、実際のドイツの暴動やデモの様子が映る。風刺コメディとして撮られた映画だが、「現実はこうですよ」と最後に見せるのも、「もしかして本作のヒトラーの言い分を信じましたか?」と問うているようでもある。

 

そしてこれは遠く離れた本国日本も全くもって他人事ではない。日本は移民が少ないというイメージがあったが、OECDの調べでは世界4位の移民国家である(日本政府が技能実習生と言っているのを世界の移民の基準に当てはめると移民に相当)。日本への移民全員とは言わないが、足らない労働力を安価な外国人労働者に担わせるなんて話は今に始まった話ではない。移民を多く受け入れたヨーロッパでの事情を日本は見て何を学べるだろうか。本作公開以降に限ってもあまり事情は変わっていないように感じるが、こういった徐々にしか変化しない事柄はゆでガエルの理論と同様、気付いた時には時すでに遅しということにもなりかねない。

 

また、本編の話に戻すが、ヒトラーに関連する描写は大変興味深いのに、狂言回しとも言えるサヴァツキのパートがまるでつまらない。一応は無能な人間だからテレビ局をクビになったということなので多少ポンコツでも構わないが、サヴァツキがヒトラーをどう評価しているのか、仮にヒトラーのそっくりさんだとしてもその彼の主張を聞いてどう感じているかは必要じゃないだろうか。それにラストになって急にヒトラーが本物だと騒ぎ始め、彼が収監されるというオチは画的にも演出的にもあまりに雑過ぎやしないか。この「ヒトラー」が本物かどうかは本作においてはさほど重要な要素ではない。サヴァツキは本作の物語を転がす上でのある種の駒でしかない。この「ヒトラー」を本物だと騒ぎ、ヒトラーが台頭するのを阻止しようとする人間が捕まるというのは確かに面白いプロットだが、これは上述のようにサヴァツキが左派であるとか、中道であるとかそういった描写がないと全く持って生きてこない。

 

本作は特にサヴァツキパートがあまりにも出来が酷いのがもったいない。ただ、このヒトラーパートにおいては間違いなく惹きつけられるものがある。民間人との会話をアドリブでこなしたオリヴァー・マスッチを起用できたことが何よりだったのだろう。

①ソフト版

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