タイトル
[Focus]
概要
1996年の日本映画
上映時間は73分
あらすじ
テレビディレクターの岩井は、盗聴マニアの金村の取材をしていると、暴力団の拳銃の受け渡しの通話を耳にし、岩井はその場所へ向かおうと強引に話を進めていく。
スタッフ
監督は井坂聡
音楽は水出浩
撮影は佐野哲郎
キャスト
浅野忠信(金村)
白井昇(岩井)
海野けい子(容子)
佐野哲郎(カメラマン)
感想
井坂聡の監督デビュー作。浅野忠信は同年「Helpless(1996)」で映画初主演を果たしている。
本作はドキュメンタリーを装った始まりである。公園のベンチでどうやら盗聴マニアの金村という青年にドキュメンタリー番組のテレビクルーが取材しているということが分かってくる。そのテレビクルーはディレクターの岩井、照明スタッフの容子、カメラマンの3人である。
ただこの金村は身バレはしたくないために、モザイク処理や取材した後の素材がどうなるかなどについてしつこくディレクターの岩井に質問しており、岩井は内心「こいつ、しつこいな」と多分思いながら受け流している感じである。その岩井は、何としても特ダネを取りたいと考え、誘導尋問のような質問をして金村から色々と情報を引き出そうとし、金村がそれに警戒していたとしても半ば強引に話を進めようとしているのが分かってくる。また、照明の容子はまだ経験が浅く、岩井やカメラマンから色々と指示されており、カメラマンはおそらくベテランで指示も的確であり経験豊富であることが分かる。あくまで岩井がディレクターであるため彼の考えで現場が動いていく。
警察が車両の移動を命じてきたことから、公園での撮影が続行不可能となり、バス車内での撮影になる(公園よりよっぽど大変だと思うが)。案の定、面倒なおじさんが絡んできて、さらにはバスを降りようとした男とそのおじさんが接触して男はそのおじさんを殴って逃走する。面倒なことに巻き込まれたくないと岩井は判断してバスから降りることにする。そのおじさんのところへ来た運転手が岩井らに向かって「なんで捕まえてくれなかったんですか」と当然のように無責任な発言をしているところも驚きである。
さらに、金村の持参した無線機の調子が悪いことが判明すると、岩井の提案で金村の家に取りに行こうという話になる。身バレしたくないと警戒する金村を強引に説得して4人は岩井の家に向かう。金村が家に無線機を取りに行っている間に、岩井らは家の周辺の映像を撮影し始める。それに気付いた金村が指摘すると、岩井は「つい癖で」と言ってごまかす。岩井やカメラマンが金村の事なんて1ミリも気にかけていないことがよく分かる。
金村が自宅に取りに行った無線機も調子が悪いとなると、今度は金村の車に備え付けている無線機を試すことにする。その無線機が受信した通話から、暴力団の組員が拳銃を駅のコインロッカーに預けたという話が確認できる。こんな特ダネに出会えると思っていなかった岩井は「その現場に行こう」と言い始める。金村や容子がそれに反対すると、「もし本当に拳銃があればそこから警察に届ければ良いじゃない」と彼らを言いくるめて強引に現場に向かう。
そのコインロッカーから箱を見つけた岩井は金村の車に戻り、その箱を開けるとそこには本当に拳銃が入っていた。それについて岩井が金村に意見を求めると、金村は呆気に取られて黙ってしまう。何も答えない金村に岩井がダメ出しをして、もう一度箱を開けるところから撮影する。すると今度は金村のリアクションがイマイチだったとして再撮影になる。そして3度目の撮影で何とかOKが出ると、テレビの撮影じゃないかと気付いた不良たちが彼らに絡んでくる。急いで車を出して逃げようとするも、不良たちは車の前で進行を妨害する。ついにキレた金村は車を降りて不良たちに銃を発砲してしまい、そのうちの一発が一人の不良に命中してしまう。
ここで金村が拳銃を手に取って発砲するにはちょっと無理があるかもしれないが、金村の溜まりに溜まった怒りの爆発と考えればそこまで違和感もない。犯罪とも思っていない無線機での電話や無線の傍受について岩井からチクチク言われ、岩井から「約束を守る」と言われてもことごとく約束は破られていき、拳銃の受け渡し場所に関する通話を傍受すると強引に現場に連れて行かれ、実際に拳銃があった時のリアクションで三度も撮影を求められた。挙句、無関係の不良にも絡まれて踏んだり蹴ったりである。岩井の無神経な言動ははっきりと注意しようと思うほどではなく、無視してやり過ごそうと思えば我慢できる程度のものばかりであった。それがどんどんと積み重なり、暴力団の拳銃を持って来るということで極度の緊張感まで生まれてしまった。さらには街の不良とはいえ第三者が現場にやってきたことで「もしかしたら拳銃を持っている現場を見られて勘違いされるかもしれない」とまで思ったはずだ。そんな金村の溜まりに溜まった怒りの大爆発と言えよう。
その金村が車に戻って急発進させ、「なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだ」と嘆きまくるが、この浅野忠信の演技は見事である。そして、この撮影で実質的な主導権を握っていた岩井から金村に完全に主導権が移行し、今まで強引に話を進めていた岩井も気が動転して強く言えなくなってしまう。
そして、次は金村の家に画面が切り替わる。冒頭に金村は撮影した素材のその後について詳しく質問していたが、金村はそれを利用してなんと岩井と容子に性交させ、その様子をカメラに収め弱みとして握ることにするのだ。岩井が冒頭から金村に依頼してきたことをそのまま金村が岩井に返していくところは非常に不謹慎ではあるが、スカッとするし何とも可笑しい。そこで金村はカメラマンに自分が映っていないか確認し、カメラに映っているのにカメラマンは「映っていない」と言うところも巧妙である。ところが、いざ本当に彼らに性交させようと金村が本気になっていくと、全くもって笑える状況ではなくなる。「こんな状況じゃ立たないよ」と言う岩井に対して「自分の手で何とかしろよ」と金村が怒鳴る。これぞ冒頭で調子の悪い無線機を何とかできないかと言ってきた岩井と重なるわけである。拳銃を頭に突きつけられたら従うことしかできず、岩井が強引に容子の服をはぎ取りもはやレイプしている様は見ていられない。そこでカメラは彼らの上半身しか映らないようにしている。もちろん下半身を映せないのは当然としても、そんな状況下でもカメラを回さないといけないカメラマンの最低限の抵抗にも思える。
すると、金村の無線機から警察無線を傍受し、発砲した男の容姿とテレビクルーがいたという情報が流れてくる。そして4人は金村の車で逃走することになる。ラストは油断し金村から銃を奪い撃ち殺したところで映画が終わる。73分という短い上映時間はあっという間であった。
浅野忠信が演じた金村は盗聴マニアという設定である。いかにも当時のオタクっぽい見た目をさせているのも当然意図的なものだろう。自分だけが楽しむ分には盗聴したって問題ないと考えており、違法行為であるとも全く認識していない。ディレクターの岩井から「違法じゃないか」と指摘されると、かなり嫌そうな顔をして反論している。他人に迷惑が掛からなければそれで良いという姿には当然身勝手さを感じるわけだが、おそらく交友関係も広くないであろう金村がそこで他者とのちょっとした繋がりを感じていたのではないかと思う。また、当時のオタクは世間で受け入れられていなかったわけであり、そんな彼が陰でこそこそするところも重なる部分がある。
そして、ディレクターの岩井は、立場上現場を仕切っている。ある程度の道筋や結末を当然考えているだろうから、岩井の金村に対する質問はどこか誘導尋問のようである。岩井は金村の無線傍受をやんわりと批判し、金村から怒りや失言を引き出そうとしているのも伝わって来る。また、不測の事態になった場合、相手に質問しているのか独り言なのか分からないが「どうしようか」と言うのが口癖のようだ。ただ、数秒したら次にどうするかの判断を下しており、ある程度の現場経験がものを言っているのだなと伝わって来る。
それから、照明の容子はおそらく現場経験も浅いから岩井やカメラマンから度々注意を受けている。そんな彼女が岩井やカメラマンに発言する機会は少ないが、拳銃に関する件になると、「警察に届けた方が良い」と言っている。まだテレビ撮影の現場における汚染を受けていない常識的なキャラクターとして存在している。そんな彼女が上司の強引な判断が原因で発生した事件で最も割を食っていると言える。また、彼女が岩井から受けるレイプは、常識を持つ彼女に対するテレビ撮影現場の現実というレイプでもあると感じる。
また、カメラマンはおそらく岩井よりもベテランで数多くの現場を経験してきたことが伝わって来る。こんな事態になってもカメラを回し続けることのリアリティラインをカメラマンがベテランであることで補完しているのも見事な設定であると感じる。カメラを回す前にどのようなことを確認しているのかなどもテレビ撮影現場のリアルを見ているようで興味深いところである。
低予算の短い映画なので、「アイデア一発もの」として片付けられがちだが、決してそんなことはない。テレビが全盛期だった90年代において、いかにテレビ制作スタッフが独善的で恣意的なのかがよく分かる。また、常識という仮面を被った大人が盗聴マニアのオタク青年を追及する構造も、当時の理解できないオタクに対する当時の距離感だったのだと感じる。メインキャラクターの4人、特に盗聴マニアを演じた浅野忠信が役者として群を抜いて輝いていた。浅野忠信目当てで鑑賞したとしても十分に満足できるだろう。実写の邦画が下火になって久しい1996年という時代だが、当時の世相も、監督のアイデアも、役者の輝きも73分という短い上映時間に凝縮されている。
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